社員の7割が外国人の日本企業、事業は在日外国人の“困りごと”解消。「日本に来てよかった」を目指す理由

「日本に来てよかった」「海外で働く場所に日本を選んでよかった」ーー。 日本へ来る外国人にそう思ってもらえるよう、日本で暮らす外国人の暮らしを支えることに特化した事業を展開する企業がある。 2026年に創業20年を迎えるグローバルトラストネットワークス(GTN)は、部屋探し、仕事、通信など様々な分野で、外国人の「困りごと」を解消するための事業を展開している。 外国人を多言語でサポートするGTNで働く人たちも、約70%が外国人だ。 代表取締役社長の後藤裕幸さん、そしてGTNで働く多様なバックグラウンドをのスタッフを取材した。 「外国人が日本に来てよかったをカタチに」 GTN代表取締役社長の後藤裕幸さん 海外で生活をする中では、様々な困難が伴う。言葉に不慣れな場合はなおさらだ。 そんな中、GTNは「外国人が日本に来てよかったをカタチに」をミッションに掲げ、創業当初から一貫して外国人専用のサービスを提供してきた。 28歳でGTNを起業した代表取締役社長の後藤さんは、そんなミッションを掲げる理由について、こう語る。 「母国を離れて海外に住んだことがある人は分かると思いますが、外国人はマイノリティとして色々な苦労を経験します。違った慣習などがある中でも、不便を少しでもなくしたいという思いがありますし、せっかく日本に来てくれた人たちなので、日本を好きなままでいてほしいんです。 現状、日本を嫌いになって帰ってしまうということも起きているので、仮に定住せずに帰国する場合も、日本を大好きなままでいてもらい、母国と日本の『架け橋』になってほしいなと思います」 そのような思いでGTNは、日本で暮らす外国人が抱える、住まい、就労、通信、金融などをめぐる「困りごと」を解消する事業を次々と生み出してきた。 「困る友人の姿」と20人弱の保証人になった経験がきっかけ ベトナム、香港、韓国出身のGTN社員 外国人の暮らしをサポートするビジネスを起業したきっかけは、後藤さんが20代から見てきた、留学生などの友人たちの姿だった。 当時、外国出身の友人たちが日本で賃貸の部屋を借りる際、連帯保証人がいなくて困っていたため、外国人の友人20人弱ほどの保証人になっていた。 その経験から、「家賃保証サービス」をビジネスの軸の一つにし、GTNの起業に至った。現在では、不動産会社1万5千社と提携し、オーナーと不動産会社、外国人の入居希望者の間に立って、家賃保証サービスや多言語サポートで、外国人の部屋探しと契約を支えている。 留学や就職で来日し新生活をスタートする人たちが、日本語に不慣れでも住まい探しに困らないようにと、7言語対応で部屋探しができる物件情報サイトも展開している。 様々な言語が飛び交うGTNのオフィス 住まい探しの他に、多くの外国人が困りごとを抱えるのが金融や通信、就労、医療などの分野だ。 日本で外国人がクレジットカードを作るには高いハードルがあることなどから、2017年に外国人専用のクレジットカード「GTNエポスカード」を設立。25言語対応の多言語サポートも充実している。 また、日本語に不慣れな場合、医療にかかるにも障壁がある。2025年10月には、医療機関向け遠隔医療通訳などを行うメディフォンと業務提携契約を締結し、アプリから33言語での医療通訳にアクセスできるようにする。 グローバル人材サービスでは、外国人の採用の他、ビザ手続きサポートや異文化コミュニケーション研修まで、日本企業の外国人採用を支援している。 外国人が多く集まる新宿区新大久保には、様々なサービスについてワンストップで相談できる店舗を構える。国内拠点は東京の他に東北、東海、大阪、福岡、熊本などで、海外は韓国、ベトナム、モンゴルと現在、4カ国16カ所まで拠点を拡大している。 グローバルトラストネットワークス新大久保店(写真左) 7割が外国人社員のオフィス。「日本で暮らす外国人をサポートする仕事を」 20の国・地域出身のスタッフが働くオフィスの共通言語は日本語だ。しかし、同社の顧客は、世界各地から来日した在日外国人。オフィスで聞こえてくる顧客たちとの電話では、様々な言語でのやり取りが交わされている。 GTNの本社は、本場の中国料理店「ガチ中華」でも話題の池袋にある。 ここで働く外国籍のスタッフたちもまた、日本への留学や就職をきっかけに、海外から日本へ移住してきた人たちだ。 来日初期の住まいや仕事探しの大変さ、様々な手続きの難しさなど、言葉も不慣れな海外で生活をスタートさせる難しさを知っているからこそ、顧客の目線に立って対応ができる。 GTN 来日後に、自身がGTNの住まい探しのサービスを利用したことをきっかけに会社について知り「日本で暮らす外国人をサポートする仕事がしたい」と就職した人もいる。 韓国出身のナムさんは、韓国の大学を卒業後、「新しい経験を」と日本へ留学。来日の際、GTNの部屋探しを利用した。現在は、事業戦略本部で働いている。「今、どんどん日本で増えている外国人を助けられることがやりがい」と話した。 ベトナム出身のブイさんは、父親の仕事の都合で学生時代に来日。外国人が部屋探しの際に、国籍を理由に断られるなどの「障壁」をどうにか解決できないのかと考えていた時に、GTNに出会ったという。 左から、GTNのブイさん、呉さん、ナムさん 社員約460人の平均年齢は33.5歳と若く、男女比率は半々。管理職のうち41.8%が外国籍で、多様なバックグラウンドを持った人たちが働いている。 異なる宗教や文化の人たちが働いているため、オフィスでの祈りの部屋の設置やラマダンの時期の業務配慮など、様々な宗教などへの配慮は「標準対応」として実践している。 来日したきっかけやこれまでのキャリアも様々だ。 現在はGTN広報部でリーダーを務める、香港出身の呉綽然(ゴ シャクゼン)さんは以前、国際線の客室乗務員として働いていた。 ワーキングホリデーで来日し、宮城県石巻市で震災復興支援ボランティアも経験。その後、日本で就活をした際には「日本に住んでいる外国人の一人として、何かこのコミュニティの力になりたい」と思い、外国人の役に立てるような仕事を探し、GTNに就職した。広報部に異動する前は不動産関係の業務をしていたため、日本の宅地建物取引士(宅建士)の資格も取得した。 GTNの呉さん(右) 昨今、SNSを中心に排外主義的な意見も上がっていることは、在日外国人も把握している。その上で呉さんは以下のように語った。 「日本にいる外国人に対して色んな意見もあると思います。GTNの広報としては、双方がコミュニケーションできる場をつくりたいと思って発信したり、イベント開催に携わったりしています。 また、これから日本に住む外国人向けのイベントで登壇することもあり、そこでは日本で暮らす中での権利と義務、文化や守るべきルールについて話す機会もあるので、今後も力を入れていきたいと思います」 「日本を夢見て、日本で頑張りたいという人たち」「意見を受け入れて力も借りどんどん改善」 GTN代表取締役社長の後藤裕幸さん 7月の参議院議員選挙の際には候補者らによる街頭演説で、排外主義を煽動するような、外国人に対するヘイトスピーチが相次ぐという事態が 発生 した。 10月に発足した高市政権でも、永住権の許可要件の厳格化検討などいわゆる「外国人政策」が急ピッチで進められている。 Xを中心とするSNSでも、外国人の受け入れに明確に反対する意見や、在日外国人に対する差別的な投稿も目立つようになった。 GTNを起業し、約20年にわたり外国人の暮らしを支える事業を展開してきた後藤さんは、このような状況をどう捉えているのか。 「『鎖国化』することが日本のためだとは思わない」とした上で、こう語った。 「日本の良さは守りつつ、変わるべき所は変わっていかないと世界に置いていかれるばかりです。むしろ日本へ来てくれる外国人の意見を受け入れて力も借り、変わるべきことは変え、どんどん改善して世界に出ていくべきです。ダイバーシティの中からしかイノベーションは生まれづらいと思います」 グローバルトラストネットワークス(GTN) 少子高齢社会で労働人口の減少も著しく、今後も悪化することが予想される中、現状でも外国人は製造、サービス、宿泊・飲食、建設など様々な業界で活躍している。 人口減少により2040年には日本では、社会を支える現役世代が8割になり、労働力が1200万人足りなくなるという「8がけ社会」が到来する。 後藤さんは「日本に労働力として外国人が必要か、必要でないかという議論のレベルで見ると、当然もう結論は出ている」と話す。 「出生率が過去最低の1.15を記録し、今後もこの様な状況が続く見込みである日本には、基本的には外国人が必要です。これは外国人の都合ではなく、日本の都合です。納税によって社会が回り、国が維持されているということを考えると、一定数の労働人口や納税者が必要になってきます。 一方で他国では人口が爆発している国もある。日本を夢見て、日本で頑張りたいという人たちがいるのであれば、受け入れて日本の労働市場を支えてもらうということは、社会を維持することにも繋がります」 アニメなど文化を入り口に日本を好きになり、日本で夢を叶えようと来日する外国人は、年々増加している。その中で、いかに社会全体で外国人受け入れの素地を整え、皆が住みやすい日本にしていけるか。 後藤さんは「今や外国人は日本社会に欠かせない存在」とし、外国人に「来てよかった」と思ってもらえる日本を目指し、ビジネスでサポートし続けたいと話す。 (取材・文=冨田すみれ子) 【あわせて読む】 「外国人材の受け入れはリスクではなくチャンス」日本のトップ企業が実践する“共に働き、成長する”ソリューションとは Related... 「外国人材の受け入れはリスクではなくチャンス」日本のトップ企業が実践する“共に働き、成長する”ソリューションとは 日本に年間30万人増えている外国人。ゴミの分別や交通ルール…どう「伝える」? 日本人と外国人が一緒に考えてつくった最適解 街の強みは「多様性」。大久保の街で40年以上続く祭り、いま共に盛り上げるのは韓国やベトナムの人々 ...クリックして全文を読む