生活者理解はどこまで進化する? 「dentsu persona hub」がつくるマーケティングの未来

10周年を迎えるアドバタイジングウィークアジア(以下、AWA)2025が、12月2日から4日まで開催された。 広告業界を活性化し、東京から世界最先端の学びと議論を発信する「自由でオープンな場」として2016年に有志で始まったAWA。 10周年となる今年は、日本アドバタイザーズ協会との共催となり、広告主と広告会社の垣根を超えた、より中立的で開かれたイベントへと進化した。 AI時代という歴史的転換点に立つ広告業界において、消費者をより幸福にするには何が必要か、多様なステークホルダーと共に考えるさまざまなセッションがおこなわれた。 ハフポスト日本版は、ランチョンセッション「ペルソナマーケティングの未来 — dentsu persona hub がもたらす新たな可能性」を取材。 生活者の細分化した価値観をどう把握し、コミュニケーションへつなげるのか——? その問いに対し、さまざまな角度からアプローチが示された。 人物像が「動き出す瞬間」にペルソナは完成する ランチョンセッションの議論の中心となったのは、電通とOguryが提供する「dentsu persona hub(以下、DPH)」だ。 DPHは、企業が設定したペルソナを、ウォールドガーデン、オープンウェブ、コネクテッドTVといった複数のメディアで一貫して活用できる共通基盤。従来の「媒体ごとにターゲティングが分断される」という課題を解消できるという。 DPHは①調査データの抽出、②AIと人によるペルソナ設計、③マルチチャネル配信という3つの構造で成り立ち、戦略と実行を滑らかにつなぐ仕組みとして期待されている。 最初のセッションでは、バカルディジャパン Marketing Managerの金城従さん、Ogury Branding Directorの林信輔さん、同Insights Directorの河本幸子さんが登壇。 「ペルソナを活用したマーケティング」をテーマに、いかにペルソナを描き、アクティベーションに落とし込むか、ウイスキーブランド「デュワーズ」の事例を交えて議論された。 「デュワーズ」は、1846年にスコットランドで創業した世界的なウイスキーブランドだが、コロナ禍を経て飲用シーンが居酒屋からバーへと移行。プレミアム帯の伸長が顕著になったという。 イメージ画像 そこでバカルディジャパンは、単なる属性データではなく、「誰が、どのような心情でデュワーズを選ぶのか」という「瞬間の価値観」を再定義することから始めたという。 描かれたペルソナは、「38歳既婚(5歳の子どもの親)」「世田谷区在住(持ち家、ローンを返済中)」「派手さは求めず、質や心地よさにこだわる」——という人物像だ。 生活の背景まで丁寧に掘り下げたことで、「自然体の自分でいられるウイスキー」としてデュワーズの文脈が明確になり、コミュニケーションの軸が定まったという。 一方、Ogury林さんは、ペルソナを描くプロセスは「像が『自ら動き出す瞬間』がもっとも大事」だと語る。 表面的な属性だけではなく、インタビューや一次情報をもとに、価値観や行動、心の動きまで描くことで、共有可能な「生きている人物像」ができあがる。そのプロセスが、後の企画からクリエイティブ、広告配信までの一貫性につながるという。 議論の締めくくりでは、「なぜ、その商品を選ぶのか?」人びとの行動の背景を掘り下げることこそ、ペルソナマーケティングの本質だという登壇者らの考えが示された。 戦略と実行の「分断」をつなぐ セッション第二部では、「dentsu persona hub を活用した事例」をテーマに議論がなされた。 第一部にも登壇したバカルディジャパンの金城さんに加え、Ogury Senior Sales Managerの三上智也さん、Dentsu Japan International Brands VP Solution Development Div.の横田祐介さん、電通デジタル Dentsu Digital Global Center Digital Plannerの後藤百香さんが話し手として加わった。 まず紹介された事例が、ラムブランド「バカルディ」だ。 日本ではモヒートに使われるラムブランドとして人気が高い「バカルディ」だが、その飲用シーンを想定しペルソナ「パリピ未満」を作成した。 「パリピ」と呼ばれるほどではないが、仲間とフェスに行き、社交性が高く、遊び慣れている――。そんな20代後半男性のペルソナを描き、その気質や趣味嗜好、生活スタイルに至るまで、詳細に作り込まれている。 イメージ画像 このペルソナは、どのようにアクティベーションに落とし込まれるのか? Oguryでは、電通の大規模サーベイデータをもとに、いくつかのセグメントと日本人全体との差分から「パリピ未満」に当てはまる層の特徴を抽出。これにより、「本来狙うべき人物像」に対し、媒体横断で正確に配信できるターゲティングが実現したという。 その結果、動画配信サービスやSNSなど複数のメディアでベンチマークを超える成果を創出。金城さんは「同じペルソナで各媒体を運用し、統合的に成果を振り返れたことは大きい」と語った。 次に紹介されたのは、外資IT企業の中小企業オーナー向けB2Bマーケティング事例。 従来は年齢や業種などの属性中心のターゲティングだったが、DPHを使うことで興味関心やライフスタイル志向など、これまで想定されていなかった行動特徴が浮かび上がった。 これをもとに動画配信のターゲティングを展開したところ、視聴完了率が改善したという。 さらにAI PCのキャンペーンでは、ウォールドガーデン、オープンウェブを横断して一貫したペルソナ配信を実施。 指標面でも、広告視聴や態度変容に加えて、ストアビジットにおける有意なリフトも見られた。メディアごとに分断されていた従来の配信とは異なり、オムニチャネルでの相乗効果が明確に示されたという。 オムニチャネル時代のペルソナ戦略 最終セッションでは、株式会社電通 データ・テクノロジーセンター グローバル開発部 部長 前川駿さん、同グローバルビジネスセンター Integrated Marketing Leadの赤羽巧司さんが登壇。 「dentsu persona hubを活用した今後の展望」をテーマに、生活者起点のマーケティングをどのように進化させていくのか語られた。 赤羽さんは、日本のみならずAPAC地域においても、生活者の価値観が細分化し続ける現在、「ブランドの語り方も人中心に再設計する必要がある」、そしてそれはクライアント/Agencyの全てのマーケターが意識すべきと指摘。 Cookieレス環境やプライバシー規制の強化により、従来の行動データ依存のターゲティングは限界が見えつつある。一方で、価値観や態度変容にもとづくアプローチは持続可能で、企業にとって中長期の競争力につながると語った。 前川さんからはDPHのAI時代におけるセマンティックマッチングソリューションとしての可能性について言及があった。 AIによってペルソナ化がより詳細になるなか、Oguryのセマンティックマッチングによって、それをシームレスに広告施策に展開できる可能性があるという。 電通グループ内での共同研究が進んでおり、アジア地域を中心に、ペルソナを共通言語として活用するプロジェクトが拡大している。 また、クリエイティブ領域への応用や、オープンウェブでのさらなるリーチ拡張など、ペルソナの活用範囲は確実に広がりつつある。 「戦略資料のなかだけで終わらないペルソナ」をいかに実務へ落とし込むか——DPHはその解として機能し始めている。 セッション終盤では、「オムニチャネルでの成果最大化」をペルソナマーケティングの未来像として提示。媒体横断で同じ人物像に語りかけることの価値が、今後さらに重要になると結ばれた。 * 今回の議論を通じて見えてきたのは、ペルソナマーケティングが単なるユーザー像の可視化ではなく、「生活者の価値観の理解」を基盤としたアプローチであるということだ。 DPHの登場により、これまで分断されがちだった「戦略」と「実行」がつながり、企業は一貫したペルソナを通じて生活者へ語りかけることが可能になった。 生活者一人ひとりの価値観が複雑化するなかで、「誰に、どのように語るか」を精緻に設計することの重要性は、今後さらに高まっていくだろう。 ペルソナを共通言語とするアプローチは、ブランドと生活者をつなぐコミュニケーションの未来を切り拓く大きな可能性を秘めている。 Related... アウトドアブランド「パタゴニア」が食品に力を入れる理由。日本初の「リジェネラティブ・オーガニック」認証取得の日本酒も発売 事業の成長が社会的インパクトに繋がる。メルカリがインパクトレポートで伝えるサステナビリティ 大丸松坂屋の“ファッションサブスク”が会員36万人突破⇨働く女性の「また同じ服」問題を救う?人気の理由とは ...クリックして全文を読む