<米国の半導体産業の再生を助けた後は、対中防衛で見捨てられるという不安> 米国は台湾との間で、関税を引き下げる見返りとして、最大2500億ドル(約25兆円)規模の対米投資を引き出す包括的な合意を締結した。中国の圧力が強まるなか、台湾にとって重要な安全保障上の意味を持つ動きとなる。 今回の協定は、米国が昨年、日本や欧州諸国、中国と締結した類似の合意に続くもの。台湾からの輸入品に米国が適用する「相互関税」率の上限を15%に引き下げる一方、米国の貿易赤字削減と製造業復活のための対米投資を促すものだ。 この協定に基づき、台湾積体電路製造(TSMC)などの半導体メーカーおよびテクノロジー企業は、先端半導体、クリーンエネルギー技術、AI(人工知能)分野で米国内の生産能力拡大に向け、少なくとも2500億ドルを投資する。 また、台湾政府は米国における半導体サプライチェーン構築を支援するため、同額の信用保証を提供する。 さらに、台湾と米国は共同で「世界水準」の産業団地を米国国内に設立し、イノベーションと先端製造の国際拠点化を目指す米国政府の目標を支援する。 見返りとして、米国は台湾製品に課す関税を最大15%に抑える。航空機部品やジェネリック医薬品(後発薬)、その原材料については関税をゼロにする。 ===== この合意は、台湾の輸出業者にとって負担軽減になる一方、米国にとっては半導体をはじめとする重要技術の国内生産を拡大する起爆剤となり得る。 台湾は世界の半導体生産の約60%を占め、最先端半導体に限ればそのシェアは90%以上に達する。これらの半導体は、AIを動かすデータセンターから先端兵器に至るまで幅広く使われており、米中間の技術覇権争いでも中核に位置する。 一方で、米国のウエハー製造シェアは、1990年の37%から2024年には10%にまで低下している(米商務省調べ)。 米商務省が18日に明らかにしたところによれば、米国における台湾の事実上の大使館である駐米台北経済文化代表処が、米台間の非公式な外交を担う米国在台協会(AIT)とともに、今回の合意に署名した。 台湾の頼清徳総統はこれを「画期的な合意」と表現し、「経済統合の深化、ハイテク分野での協力、重要分野における相互投資が強化され、より強固なパートナーシップと繁栄につながる」と語った。 中国外交部の郭家坤報道官は19日、「中国は、台湾地域と外交関係を持つ国々が主権的意味合いを持ち、公式な性格を帯びる協定を締結・交渉することに断固反対する」と述べた。 ===== 米下院議員で「米中経済安全保障調査委員会」共同議長を務めるクリス・スミスは、「米国と共産中国が技術覇権を巡って競り合うこの決定的な局面において、台湾による米国技術への多額の投資は極めて重要だ」との声明を発表した。 だが、米外交問題評議会(CFR)でアジア研究を担当するデビッド・サックスは、台湾側の不安についてこう本誌に説明した。「対米貿易を強化する一方で、米国の最終的な意図には不安がある。半導体の国産化に成功すれば、もはや台湾の安全保障に関心を持たなくなり、中国の侵攻からも守ってくれなくなるかもしれないと感じている」と分析した。 中国は台湾を自国の領土と主張し、必要とあらば武力で統一を図ると宣言している。一方、米国は台湾を主権国家とは正式に認めていないものの、最大の武器供給国であり、「戦略的曖昧戦略」と呼ばれる対台防衛政策で中国の行動を抑止してきた。 だが近年の台湾では米国の信頼性に対する疑念が強まっている。背景には、ドナルド・トランプ米国大統領の一連の発言がある。トランプは、台湾が米国の半導体産業を「盗んだ」と主張し、台湾が中国からの「保護料」を払うべきだとも述べた。 ===== トランプは中国の習近平国家主席から「大統領2期目の間、中国は台湾に手を出さない」と保証を得たと主張している。 「もし彼(習近平)が手を出したら、私は非常に不満だと伝えた。彼はそんなことはしないと思うし、してほしくない」と、トランプは先週のニューヨーク・タイムズのインタビューで語った。 【関連記事】 世界中の90%以上を生産...「半導体の盾」TSMCは台湾を守れるのか? むしろ中国を駆り立てるのか? 台湾有事が「日本有事」を誘発する可能性大...最前線の南西部離島で広まる危機感、備えは十分か?