「これまでは過去の個人的な物語から浮かび上がる社会への眼差しを起点としていましたが、今は眼前に広がる現実を直視することが必要だと気がつきました」——先シーズン、デビューから10年間向き合い続けてきた製作手法を改め、“第2章”へと足を踏み入れた「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」。「自身の内面」から「現代社会に生きる人々の在り方」へと視点を移した前回は、客観性がもたらす静けさとリアリティをまといつつも、そこには依然として個人と社会の間に生まれる「情動」や、独自の「人物像」が息づいていた。 しかし、今回の2026年秋冬コレクションにおいて、その前提は大きく覆された。発表の場に選ばれたのは、クリエイションの背景にある情動や人間像を熱量豊かに伝えてきたランウェイではなく、今春にショップ兼ショールームとしてオープンを予定している静謐な空間だ。コンクリート打ちっぱなしの無機質な空間の床一面には、約3000本のピンクのスターチスが直立し、その花々に囲まれ浮遊するようにして、14体の白いトルソーが服をまとい佇んでいた。 観客にルックとの静かで濃密な対峙を強いるこのプレゼンテーションで吉田が試みたこと。それは、ブランドのアイデンティティでもあった「情緒的な演出」を一度手放し、「服そのもの」を見つめ直してその構造や記号性を再編集するプロセスを通じて、「ファッションの豊かさ」を現代に提示することだった。 このコンテンツは FASHIONSNAP が配信しています。