「男性の時短管理職」は日本にいないのか⇒すかいらーくに存在した。想定外の「13時退勤」どうやった?

「男性の時短管理職」は日本に存在しないのか。 時短勤務をしたことがある男性は一桁台と限られている(※1)。 「管理職の時短勤務」となると女性でも珍しく、男性ではネットやSNSで調べても、ChatGTPに聞いてみても、キャリア関連の会社に問い合わせても、表に出てくる該当者・事例はほぼ皆無だ。 「日本に存在しない」かと思われた「男性の時短管理職」が、すかいらーくグループに存在していた。時短管理職の実態をすかいらーくの例から紐解いてみる。 このストーリーの一覧記事はこちら⇒ 「『男性の時短管理職』が気づいた6つのこと。意外すぎる発見とは」 すかいらーくグループ本社 「時短勤務」を始めようと思ったら...大誤算も 山本太さんは2017年ごろ、神奈川・小田原の夢庵で店長(店舗マネジャー)を務めていた。子ども2人を山本さん1人で育てることになり、「時短勤務」を選んだ。当時、長女は小学3年生、次女は3歳だった。 レストラン業は通常、ランチやディナー帯に混雑のピークを迎える。従来の勤務では、その時間帯をカバーした「昼12時〜午後9時」「午後3時〜深夜0時」だったという。 「時短勤務」を選択してからは「午前9時〜午後6時」に変更。次女の保育園の迎えに行けるよう、勤務する時間帯を調整した。子どもの体調不良や行事に応じて、週1、2回ほど「午前9時〜午後1時」という日もあった。 「外食業というのもあり、勤務時間の固定はなかなか難しい。9時6時という働き方も可能ではありますが、あまり多くありません。正午から夜や、昼過ぎから深夜という勤務パターンだったのを、時間を固定させてもらいました」 「時短勤務」を始めた山本さんに大誤算が起きた。幼稚園に通っていた次女が保育園に転園できなかったのだ。入園までの1カ月半は「午前9時〜午後1時」というスタートになった。 山本太さん 店舗で社員は自分だけ。どうやったのか? 予期せず、「昼以降は店長不在」となった山本さんの夢庵。 正社員は山本さん1人で、アルバイトのクルー約40人をマネジメントする立場だった。スケジュール管理からクルーの評価・昇給、研修や食材の発注まで、マネジャー業務は多岐にわたる。 「店長不在」でも店舗オペレーションに支障がないよう、山本さんの代わりとなる人材が必要だった。 「その日に働いているアルバイトの方達をまとめていただく人にいてもらわないといけない。どうしてもその日の営業が終わった後に発注業務などをするので、担っていただける人が必要でした」 昼と夜で1人づつ、経験豊富で信頼のおけるクルーにその役を引き受けてもらい、作業や注意点などをレクチャーしながら引き継いだ。トラブルや緊急時に対応についても、事前に対策を伝え、判断を委ねた。 「お客様からの質問や何か起きた時も、その時間帯のまとめる人に責任者として対応してもらいました。報告をもらい、必要であれば私から後日そのお客様に対応していました」 時短勤務がうまくいった理由 時短勤務による支障や大きなトラブルもなかった。クルーの尽力はもちろん、他にも理由があった。 山本さんが前任地の大阪で、マネジャー1人が複数店舗を担当する「複数店マネジャー」制度を経験していたからだ。 「マネジャーにしかできない業務を限りなく減らさないと、複数店マネジャーは成り立ちません。小田原に来た時も、この制度を採用した方がお店にとってよいと感じていたので、実現に向けて動いていた経緯があります。それもあって時短勤務にも移行しやすかったです」 評価は諦めざるを得なかった 一方で、「クルーの人事評価」で諦めざるを得ない点があったと、山本さんは明かす。 「私が直接見て、直接評価することは諦めざるを得なかったです。本来であれば、ひとりひとりの働きぶりを自分の目で見て、しっかりと評価する立場だと思うのですが、そこは難しかったです」 時短勤務で不在にする時間帯が発生する分、働きぶりを直接見る機会が減ってしまったクルーもいる。 「まとめ役の方に評価基準などを伝えて、後ほど詳細に私が聞く形をとり、判断していました。一定の評価基準を渡していたので、その方の評価と自分の考えに違いがないかを確認していました」 時短勤務を支える側は。当時あったらよかったのに... マネジャーの時短勤務は、他の従業員の業務に大きな影響が出る。特に山本さんが不在の時間帯は、まとめ役のクルーの業務負担や責任が重くなる。 その分の手当て・サポートは 「正直なところ当時はあまりなかった」 と、山本さんは打ち明ける。今ではマネジャーの判断でクルーの昇給をしやすくなっているが、当時はそこまで裁量・権限が大きくなかった。 「夕方以降・夜のまとめ役の業務量はすごく多くなってしまう。もちろん本人も『大丈夫』と言ってくれましたが、それに見合った昇給をさせられたのかなという気持ちはあります」 「そこから人事制度が変わり、クルーに色んな仕事をしてもらった分、還元しようという動きに変わった。今ではかなり、マネジャーの判断でクルーの昇給ができます」 2025年に始まった「スポットクルー制度」では、単発で数時間ほど働くクルーをすかいらーくグループ内外から募集でき、急な欠員があった際も店舗人員を補充しやすい仕組みを整備。店舗運営に強力なサポート体制が整った。 すかいらーくグループ本社 時短でうまくいっていた、でも頭から離れない 順調のように思えた時短勤務。時短マネジャーとして5カ月ほど勤務し、山本さんは管理職を退く決断をする。 「最初はマネジャーのままできる限りやりたいと思っていました。ただ4、5カ月やった中で、マネジャー職だと子どもと過ごす時間が理想通りにならないと感じました。それでアシスタントマネジャーを希望しました」 「周りから見たら、時短勤務でも店舗は運営できていたと思います。ただ、マネジャーでいることで、仕事が頭から離れず、やらなければと考えてしまう。子供たちに意識や重きを置きたいという気持ちがありました」 アシスタントマネジャーとして、店長(マネジャー)がいる別の近隣店舗に移った。働く時間は概ね「午前9時〜午後6時」と変化はなかったが、スケジュール管理や緊急対応の最終判断などの業務から離れた。 初めての時短管理職。印象に残っている2つのこと すかいらーくグループでは当時、管理職・マネジャーで時短勤務の経験者はいなかったという。山本さんが選択した後、時短勤務をする管理職も増えた。 グループ内の先駆け的な存在として、山本さんは 「時短勤務をぜひとってほしい」 と勧める。 時短勤務において、印象に残っていることが2つあるという。 ひとつは、自身の仕事の生産性が高まったこと。子どもの迎えで退社時間をずらせないため、その時間に仕事を切り上げなければいけない。その意識やプレッシャーが作業効率の向上につながったと感じている。 もうひとつは、店舗で働くクルーに対する見方の変化。 「私が思っている以上に、『お店に貢献したい』と思ってくれているクルーの方は多い。マネジャーが毎日いることで、仕事や成長の機会を損ねている部分もあると思います。それほど、クルーの方達はすごいと感じました」 山本さんは再婚し、子どもに恵まれた。里帰り出産だった長男をのぞいて、次男の時に3カ月半、三男の時に1カ月半、それぞれ育児休暇を取得した。 「忙しい」というレストラン業のイメージに対して、山本さんは「レストランビジネスは融通が利く」と考えている。発注業務の自動化、先々のスケジュールも把握できる仕組み化も進んでおり、マネジャーも育休を取りやすいと話す。 「パパ育休は最大4回に分けて取ることができ、また育休中にある程度働くことも可能です。私たちのお店だとどうしても水曜日は休みにくいのですが、例えばそこだけ働いて残りの曜日は育休を取る。そういうことを、レストラン業界はしやすいのです。この柔軟な制度が安心して働き続けられる理由です」 山本太さん ※1 連合 「 仕事と育児の両立支援制度に関する意識・実態調査2023 」 厚労省「 令和3年度雇用均等基本調査 」 日本能率協会総合研究所「 仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 」(労働者調査) Related... 「男性の方が“柔軟に働く”のが難しい?」子育てとの両立不安で6割が離職を検討。女性を上回る数字の背景を探る 子育て中、時短勤務をするのは女性だけ? ある40代男性の選択は「家族の幸福を最大化した結果」。 「管理職罰ゲーム問題」が女性の活躍を阻む。ジェンダー格差を生む「日本特有の平等主義」とは? ...クリックして全文を読む