ワインなどの製造販売をするメルシャンは2月中旬、「2026年メルシャンワイン事業戦略発表会」を開催した。同社の親会社であるキリンホールディングスは、自然資本に関する先進的な取り組みの数々で知られている。 ホールディングスの中で唯一農業を営む同社は、遊休荒廃地をブドウ畑に生まれ変わらせる形で開園した「椀子ヴィンヤード」(長野県上田市)などで知られ、同園は日本国内で初めて、農産物を生産しながら生物多様性の保全ができている場所として、環境省から「自然共生サイト(OECM)」に正式認定されている。 また、ワインツーリズム体験の質などを評価する「ワールドベストヴィンヤード」の2025年度の発表では46位にランクインするなど、各方面から注目を集めている。 一方で、アルコールを取り巻く暮らしや市場の変化が目まぐるしい昨今、ワイン市場全体に新たな打ち手が求められている。 発表会には同社代表取締役社長の大塚正光さんとマーケティング部長の神藤亜矢さんが登壇し、2025年度の事業成果や今後の事業計画を語った。 メルシャンの成長を牽引した、新たな視点 2025年度の同社の売上収益は前年並みを維持し、ワイン事業利益は為替影響を受けながらも増益を達成した。 同社では、ワイン市場の活性化に向けた三本柱として「プレミアマイズによる市場の魅力化」「イノベーション開発による新規ユーザー開拓」「グローバル市場の拡大」を設定している。大塚さんは、特に今回の成果の背景には「2024年よりお客様へのアプローチ方法を見直したこと」が寄与していると分析する。 大塚正光さん 以前はターゲットの分類を「国内製造ワインユーザー」「輸入ワインユーザー」「ワインライトユーザー」など、生活者のワインの好みで分類していた。 しかし、2024年度からはグルーピングの方法を一新。自分自身の感性やライフスタイルに合っているかという観点で商品を選ぶ「自分らしさ層」、自分にとって価値のあるものかどうかという観点で商品を選ぶ「こだわり層」、健康的であるかという観点で商品を選ぶ「健康志向層」、求めやすい価格や簡便であるかという観点で商品を選ぶ「やりくり層」の4つに生活者を分類し、これまでワインと距離のあった生活者へもリーチしたという。 また「こだわり層」の獲得においては、チリNo.1ワイナリー「カッシェロ・デル・ディアブロ」が22年比で158%の売上を記録し、ワイン市場のプレミアマイズ(高付加価値化、高価格化)を牽引。神藤さんは「大塚が就任して最初に取り組んだのが、お客様への向き合い方の見直しでした。特に『自分らしさ層』と『こだわり層』に注目してインサイトをとらえたこと、量よりも質を重視するプレミアマイズに着眼したことが、ワイン事業を支える礎になりました」とコメントした。 また、生活者のライフスタイルの変化や多様化に合わせて開発されたというボトル缶入りの製品群は、若者や女性を中心としたエントリー層を多く獲得。前年比で136%の売上を達成し、ワイン市場の裾野を拡大した。 グローバル市場においては、「インターナショナル・ワイン・チャレンジ 2025」で「シャトー・メルシャン 岩出甲州きいろ香 キュヴェ・ウエノ 2023」が金賞および日本ワイン最高賞となる「トロフィー」を受賞。新たにタイへ輸出なども開始され、売上は前年比2倍超を記録した。 さらに、創業時より掲げている「持続可能なワインづくり」に沿ったCSV活動においては「城の平ヴィンヤード」に「ソワノワール」が植樹されたほか、同園が自然共生サイトに認定されるなどの進捗があったという。 ネイチャー・ポジティブな企業として、世界基準の信頼獲得を目指す 続いて、大塚さんは同社が今後目指すワイン事業の姿について説明。ワイン事業の現状について「ワインは気候変動の影響を受けやすい事業領域なので、厳しい状況にあります」と明かした。 特に収穫期の変化による人手不足や、猛暑による品質や特徴の変化などが深刻だといい、世界中のほとんどのワイン生産地域では過去40年間で収穫が2~3週間早まっているという。さらに世界平均気温は上昇を続けており、2100年までに+5.7℃上昇する 見込み というデータにも言及し、その深刻さを強調した。 市場や環境の変化を受けて、同社では2026年より新たな企業パーパスを「自然のめぐみを、幸せにかえてゆく。」に設定した。若手・中堅・経営層が半年にわたって熟考して決定したという本パーパスには、「人と人のつながりと、人と自然が交わる機会を増やして、地球、社会、あらゆる人の幸せを実感できる時間を延ばす」という思いが込められている。 大塚さんは「ワインを開けた瞬間から、香りや色、味を楽しんで、そこにスロウな時間が流れ、なおかつ人が笑顔になり会話が生まれる。そんな社会をずっと続けていきたい」と語り、さらに「農業を基盤とするワイン事業だからこそ、地球に対してポジティブなインパクトをもたらす事業経営をしていく」「自然の恵みに大きく依存した事業だからこそ、自然の持続可能性の向上に取り組むことが、事業そのものの持続可能性の向上につながります」と、ネイチャー・ポジティブ経営の重要性を強調した。 メルシャンの製品 同社では今後、ヴィンヤードにおける生物多様性の取り組みや“調達する側の責任”を受け止めた国際的なパートナーシップの締結に加え、「B Corp」認証の枠組みを活用したネイチャー・ポジティブ経営の推進を目指すという。 「B Corp」認証とは、アメリカの非営利団体がネイチャー・ポジティブ経営を進める枠組みとして打ち出した国際基準の認証だ。環境や社会、人権、ガバナンスなどの観点から企業の姿勢と実態を総合的に評価し、取得した後も継続的に点検や改善が求められることも特徴だ。 大塚さんは「とても取得は難しいですが、責任ある企業経営を示す指標として、ふさわしいフレームワークだと思います」と説明し、すでに認証を取得している企業をお手本にしながら、取り組みに着手していくという。 取り組みの事例としては、グローバルパートナーと輸送手段・容器包装の取り組みの見直し・改善や、2030年までにGHG排出量を2019年比で30%削減することが発表された。 農業基盤の事業を未来につなぐ、新たな打ち手が続々 神藤亜矢さん 同社では今後、ダイレクト販売を中心とした事業拡大にも注力していく方針だ。 特に中高価格帯のワイン構成比の向上に引き続き注力し、2035年までに2025年比で同市場の売上を2倍、売上全体に占める構成比においては10%の向上を掲げている。 その中核を担う「シャトー・メルシャン」は、続々と名高い飲食店などから注文が入っているといい、神藤さんは「社内にはうれしい知らせが舞い込み、共に喜びを分かち合っています」と話した。また4月21日には、創立60周年を迎えた「ロバート・モンダヴィ」の新ブランド「ロバート・モンダヴィ カリフォルニア」の発売を予定しており、プレミアマイズの加速が快調に進んでいるようだ。 また、ボトル缶や紙パックなどイノベーション開発による商品の売上は、2035年までに2025年比で1.7倍を目指し、市場の価値観変化を捉え、飲用シーンの拡大によって新規の消費者獲得を加速させるという。さらに3月31日には、「メルシャン・ワインズ サニーサイド オーガニック スパークリング」シリーズのデザインがリニューアルし、同シリーズの「レッド」も同時発売される予定だ。 小型紙パック容器に入った「メルシャン・ワインズ フルーツスキップ」がお気に入りだという神藤さんは「飲み終わってつぶして捨てるまで、すべての工程が簡易的で暮らしに取り入れやすいです」とアピール。「今までのお客様を大切にしつつ、まだワインに手が届いていない新しいお客様にリーチすることも大切です」とコメントした。 メルシャン・ワインズ フルーツスキップ グローバル市場の拡大における数値設定としては、「シャトー・メルシャン」の輸出額を、2035年までに2025年比で5倍を目指す。2026年は台湾、EU市場の拡大とともに前年比130%を目指すという。また、新たに国内製造ワインの輸出に挑戦すると語った。 DtoC事業の拡大にも注力するといい、生活者とのタッチポイントを増やし間口を拡大することで、DtoC事業の売上を2035年までに2025年比で2倍まで伸ばすことを目指す計画だ。 神藤さんは「こうした取り組みを通じて事業成果を残しながら、農業を基盤とするワイン産業を牽引してまいります」と改めて今後の事業展開に寄せる思いを明示し、発表会を締めくくった。 参考記事: 長野のブドウ畑に世界の投資家が集まった。一体なぜ?キリンが自然資本の開示を世界に先駆けてできた理由 「生物多様性がどんどん回復する」日本ワインのブドウ畑に行ってみた。「お金にならなそうで最初は研究を断ったけれど…」 【関連記事】 カカオ産業で深刻な「児童労働」問題。チョコレートをめぐる挑戦の現在地とは?企業やNGOが語りあった 本当にしょっぱくなる…!減塩食がおいしくなる魔法の食器「エレキソルト」第二弾はカップで。味はどう?試してみた【発表会レビュー】 農業の「つくり手と食べ手の分断」とは?野菜の未来に挑む「土の革命」に注目 ...クリックして全文を読む