「いじめ加害者は就職不利」に驚きの声も。日韓の若者70人、植民地支配の歴史から就活のリアルまで語り合った4日間

日本語と韓国語が飛び交う、都内のある貸し会議室。 およそ70人の学生が、両国のカルチャーや就活、植民地支配の歴史について議論を交わしている。真剣だが、笑い声も上がる。 「日本の女性は家庭的?」「韓国の男性はロマンチック?」ドラマで描かれた典型的なイメージと現実とのギャップに「それはない」と突っ込む人も。在日コリアンのラッパーFUNIが関東大震災での朝鮮人虐殺や差別について歌った「Resurrection 101」を、学生がラップで披露した時には、歓声と拍手が響いた。 2月上旬、日本と韓国の学生が開催する討論イベントを取材すると、「誰が正解か」を求めるのではなく、日韓の違いや共通点、横たわる問題を知り、本音で話すことで理解を深めようとする、等身大の若者たちの姿が見えてきた。 日韓青年パートナーシップが主催した討論イベントの様子(プライバシー保護のため、写真は加工されています) 「愛の不時着は異世界の話」 討論イベントを主催したのは、学生交流団体「日韓青年パートナーシップ」で、今回で17回目を迎えた。企画や運営はすべて両国の大学生・大学院生で行っており、2020年から東京とソウルで交互に開催。延べ1000人以上が参加してきた。参加者の多くは2つの言語の聞き取りができるため、通訳担当もいるが、すべて訳すわけではなくサポートする程度だ。 「就職」「コンテンツ」「大衆文化」「領土」「ナショナリズム」「在日韓国人」の6グループに分かれて討論し、4日目の最終日に発表とテーマに沿ったワークショップが行われた。 「大衆文化」のテーマでは、ドラマなどのコンテンツが生み出す偏見について議論した。 日韓合同制作のドラマが増えているが、コンテンツは偏見をなくすことにも、助長することにもなりうる。韓国で兵役に就いた学生が「(朝鮮民主主義人民共和国の将校と、韓国の財閥令嬢の恋愛を描いた)『愛の不時着』みたいなことは絶対起こらない。異世界の話」だと率直にコメントすると、「エンタメを鵜呑みにしちゃいけない」「本来の姿を理解しようとする姿勢が大切」などの意見が出た。 「自分たちが作るなら?」という話題では、「フィクションより、歌番組やリアリティ番組、ドキュメンタリーを一緒に作るのはどうか」という提案もあった。「いいね」とうなずく学生たち。消費者から制作者へと視点を変えると、「互いの国のイメージを、完全に自制すると面白くなくなるかも。知ろうとするきっかけになることもある」「エンタメが相互理解のための全ての役割を担う必要もないのではないか」と悩む声も聞かれた。 さらに踏み込み、制作環境にも話は広がった。日本の製作委員会方式は「複数の企業の参入でリスク分散できる。一社あたりの利益は少ないが、中小企業にもチャンスがある」、韓国のスタジオシステムは「ヒットすると収益が大きいが、少ない大企業による市場独占が問題」。偏ったイメージを生まないためには、作品の多様性を尊重する制作環境も重要になる。 就活の違い。スペック重視の韓国と、ガクチカ聞かれる日本 ワークショップ後には、気づいたことや感想を付箋にまとめた 日韓の違いが特に顕著になり、驚きの声が上がったのは、就活やキャリアについて。大学3年から就活が始まる日本に対し、韓国では、選考や面接などの本格的な就活は卒業してからで、就職先を見つけるまでに数年かかる人も多くいる。 日本の就活の長所は「人柄や経験など個人のストーリーが重視されること」。韓国は「卒業してからの就活なので、自由に時間を使えること」。面接は基本的には1回だけだといい、「無駄が少なく効率的」という声もあがった。 韓国は「人柄やポテンシャルよりスペックや成果重視」だという。日本の学生は、面接で聞かれるガクチカ(学生時代に力を入れたこと)を例にあげ、「日本にも学歴フィルターはあるが、経験から何を学んだか聞かれる。明るさや協調性も必要で、大学で学んだ専門性が評価されにくい」と話した。 両国で校内暴力の問題は深刻化しているが、韓国の学生が「いじめの加害者は、記録に残って大学入試や就活にも影響が出る」と明かすと、日本の学生からは驚きの反応が広がった。韓国では、抑止力を高めるという狙いで、校内暴力の加害側の生徒が重い処分を受けた場合、その記録が大学入試の結果に 反映される 。その記録は最大4年保存されるため、就職への影響も出ると考えられている。 一方で、共通する悩みもある。日本の学生が「就活に時間がとられる。学生にしかできないことを楽しみたいのに急かされている」と言うと、韓国の学生も「卒業後の就活を見据えた資格の勉強が、在学中から大変。休学してインターンやボランティアなどの対外活動に力を入れて、準備を進めている人もいる」と返した。「学生のことを考えていないよね」という意見に同意する人も多く、日韓の学生らが共通して置かれている学歴社会や格差社会が浮かび上がった。 就活のテーマでは、互いの国の実情を知ることで、自国で「当たり前」とされてきた就活の方法に疑問を持つ声も聞かれた 「国籍だけでアイデンティティは定義づけられない」 「在日韓国人」のチームは、日本による朝鮮植民地支配や戦後補償などの歴史的背景を踏まえ、「日本でも韓国でも差別があり、それがアイデンティティの混乱にもつながっている」と発表した。 「アイデンティティを形作っているものは何だと思うか」という呼びかけを受け、「深く考えたことがなかった」と口にする学生も。留学時、韓国との文化的違いを実感したという日本の学生は、こう話した。 「現地の友達が、우리/ウリ(「私たち」の意味で、国や学校など自分の所属に우리をつけて使うこともある)という言葉を使う時、自分がウリの内側にいると感じられず、우리나라/ウリナラ(我が国)の感覚がわからなかった。植民地支配の歴史や、韓国の兵役を考えると申し訳なさがあったが、友達に伝えると、私たち同士が良い関係を築くのが大事と言われ、初めてウリの一員になったように感じた」 日本の国籍を取得する「帰化」の議論になると、「韓国でも日本でもなく、在日としてのアイデンティティがあるから、国籍だけの問題ではない」と指摘する学生もいた。「何が好きか嫌いか、得意か不得意か、どう生きてきたかも含めて自分。国籍だけでアイデンティティは定義づけられない」という意見には、同意が広がった。 6つのグループに分かれて、3日間かけて発表内容をまとめた(プライバシー保護のため、写真は加工されています) 全員がほぼ初対面。熱心に語り合う仲に テーマは、実行委員の学生がアイデアを持ち寄り、日韓の若者同士で討論する意義や、今の社会情勢を踏まえて決めた。実行委員の一人である伊東小陽さんは大学4年生。初めてイベントに参加したのは3年の時で、その後実行委員に手を挙げた。 「高校から韓国語を勉強し、大学では韓国の歴史に関するゼミをとっていました。歴史理解のために、実際に韓国の人と話したいと、参加を決めました。日本軍『慰安婦』問題について話し合い、事前知識は豊富ではありませんでしたが、慰安婦にされた女性たちの経験談を聞き、韓国の学生の問題意識の強さも感じました。日本の教科書ではほとんど学べないことも知り、参加をきっかけに資料を調べて、自分なりの意見を持てるようになりました」 最終日の発表準備のため、学生たちは3日かけてグループごとに日韓両言語で記事や論文をリサーチした。全員がほぼ初対面。1日目は硬い雰囲気もあったが、食事を共にして、2日目から自分の経験を話し始めるようになり、熱心に語り合う仲になった。国の違いはあるが、一方的にアイデンティティをジャッジされることの違和感や、格差が広がる社会で生きる息苦しさ、カルチャーへの関心など、共通点はいくつもあった。 伊東さんは4日間を振り返り、「自分の国の視点だけではなく、外の世界に目を向けることで、関心が広がるきっかけになれば。ここで生まれた縁が今後もつながっていくと嬉しい」と話した。 (取材・文=若田悠希/ハフポスト日本版) aaa 関連記事 韓国を「親日・反日」で語ることの何が問題か。二元論で報じてきたメディアの責任と、その弊害【韓国大統領選】 ある少年死刑囚との出会いが人生を変えた。在日2世が植民地支配で奪われた魂を取り返すまで【映画・よみがえる声】 「在日コリアンが本名で生きる」その壁と希望。朴昭熙さんが、日米で活躍する俳優になるまで ...クリックして全文を読む