NEC 取締役 代表執行役社員兼CEO 森田隆之さん(中央)、デロイト トーマツ グループ ボード議長 永山晴子さん(右)、アサヒグループ ホールディングス会長 小路明善さん(左)、 企業の持続的成長を目的に、役員の女性比率を30%以上へ引き上げることを目指す「30% Club Japan(30%クラブジャパン)」が3月6日、第三期(2026年5月〜2028年4月)の活動方針を発表。新たなチェアにNEC社長兼CEOの森田隆之さんが就任、バイスチェアには第二期のチェア、永山晴子さんが就任することが報告された。 「30% Club(30パーセントクラブ)」はイギリス発の取り組み。組織内で少数派(マイノリティ)が真の影響力を持ち、変革を引き起こすために必要な“クリティカルマス”とされる30%を目標に掲げている。 女性役員比率は着実に上昇 2019年の発足以来、「2030年を目処に、TOPIX100(東証株価指数を構成する時価総額上位100社)の取締役会における女性比率を30%以上にする」ことを目標に掲げてきた30%クラブジャパン。 30%クラブジャパンの組織体制は、チェアのもとで活動の大きな方針を決定するステアリングコミッティを中心に、TOPIX社長会、インベスターグループ、大学グループの3つのワーキンググループで構成されている。 加盟企業や各種団体と連携し、参加者数は発足当初の約3倍となる100人規模に拡大。取締役会の女性役員比率はTOPIX100で11.0%から25.3%へ、TOPIX社長会参加企業では17.7%から27.3%へと上昇した。 TOPIX100のうち女性役員比率が30%以上の企業も、2社から29社へと増加している。 こうした成果について永山さんは、「2030年を目処にTOPIX100の女性役員比率を30%以上にするという目標は、少し前倒しで達成できるのではないかと楽観的に見ています。そうできるよう、これからさらに活動に力を入れていきたい」と前向きに語った。 企業トップによる社長会の取り組み TOPIX社長会のチェアを務める小路明善さん(アサヒグループHD会長)からも、活動成果について報告があった。TOPIX社長会の加盟企業は第2期から拡大し、新たに6社が加わって34社となり、業種も13業種から14業種へと広がった。 TOPIX社長会は、企業トップが参加する「トップ会議」と、各社の実務者で構成される「PM(プロジェクトマネジメント)チーム」で構成される。PMチームは実務レベルの課題に向き合い、「Quick Win Action」を実行。若手期、育児期、円熟期といったキャリアの各段階で生じる課題の解消に向けた取り組みを進めてきた。 小路さんは、取締役会における女性割合は向上しているものの、執行責任者層の女性比率の伸び悩みや企業文化など、構造的な課題が残っていると指摘。D&Iが企業価値向上につながるという文化形成が、十分に進んでいないと分析した。 「第3期では女性登用の数的な目標に加え、質的な変革や女性登用のパイプラインをどう整備していくかが重要になります。男女の区別のない企業文化の醸成や、業種によっては残っているアンコンシャスバイアスの解消など、より踏み込んだ議論と活動を進めていく必要があると考えています」と今後の方針を語った。 第3期の目標 新たにチェアを務める森田さんから、第3期における目標と活動方針が説明された。 NEC社長兼CEOの森田隆之さん インベスターグループのチェアはインベスコ・アセット・マネジメントのヘッド・オブ・ESGである古布薫さん、大学グループのチェアは東京大学総長の藤井輝夫さんが務める。また、TOPIX社長会加盟企業には第3期からトヨタ自動車が加わり、35社に拡大。業種も14業種から15業種へと広がる。 全体目標として掲げたのは、「TOPIX社長会参加企業における取締役会の女性比率を2027年度(第3期終了時点)までに30%以上とする」というもの。30%クラブジャパンの発足当初に掲げた目標よりも早期の達成を目指す。 執行責任者の登用を加速させるため、各社は2030年までの5カ年ロードマップと達成目標値を設定。すでに達成している企業については追加目標として、取締役の内部登用やP/L責任を担うポジション経験の意図的な付与など、各社の状況に応じた実効性のある取り組みを進めていく。 さらに第3期では、「インベスターグループと大学グループの共同目標の設定」にも取り組む。インベスターグループは、取締役会のさらなるダイバーシティ向上を通じて日本企業の中長期的な企業価値向上につながる施策の検証と実行を目指す。一方、大学グループは、多様なキャリア形成を通じたジェンダー平等の実現に向けた取り組みを進め、共同目標を共有していく計画だ。 今後の活動方針 第3期では、次の4つの活動方針を掲げた。 ① パイプライン強化と次世代女性リーダー育成 「活動を通じて各企業トップから異口同音に聞かれるのは、『時間がかかる』という点」と森田さん。執行責任者層における女性比率の向上や社内登用の加速を進め、将来的に取締役会につながる候補人材の育成・登用を強化していく。 ② 企業文化改革と男性の意識変革 TOPIX社長会でも活発な議論が行われたテーマだという。森田さんは「女性の問題というよりも、むしろ男性側の問題という側面も大きい」と指摘。アンコンシャスバイアスを含む固定的な価値観を見直し、トップ自らがコミットして意思決定の仕組みを変えていく必要性を強調した。 ③ 企業価値を高める情報開示のあり方 ジェンダーギャップの解消が企業のイノベーションの加速や企業価値の拡大に寄与するという観点から、インベスターグループとの連携も強化。有価証券報告書などにおける情報開示の高度化や、投資家との対話の質の向上を進めていく。 ④ キャリアの多様性を実現するジェンダーギャップ是正 学生期から多様なキャリアを描ける環境を整えるため、大学グループと連携。学び直しや役割転換も含めた多様なキャリア形成を支え、企業活動全体におけるジェンダーギャップの是正につなげていく。 森田さんは、「企業経営の立場から、日本企業の成長や企業価値の向上にとって大きなドライブになる取り組みだと感じています。企業・投資家・大学が連携し、日本企業の成長を牽引する一つの取り組みとして進めていきたい」と語り、企業トップの多様化が企業の成長につながる可能性を強調した。 女性登用をめぐる課題 女性登用の目標を掲げることなどで、社内に不公平感が広がらないかという懸念について、永山さんは、「女性が活躍しやすい制度は男性にとっても働きやすい環境づくりにつながる」と説明。「一人ひとりが個性を発揮できる環境を整えることが重要」と述べた。また、アンコンシャスバイアスや性別役割分業といった意識の変化も課題だと指摘した。 森田さんは、企業の制度やインフラが長く男性中心で設計されてきた現状に触れ、「能力を持つ人が不利になっている状態が見えにくくなっている」と説明。そのうえで、組織内でマイノリティが個人として発言できる環境をつくるためには一定の人数が必要であり、「そのレベルに到達するまでには、一時的に(女性に対して一定の枠を割り当てる)クオータ制のような仕組みも必要なのではないか」との認識を示した。 また、すでに女性役員比率を30%達成している企業と達成していない企業の差について、小路さんは「トップの意識、発信、行動が非常に重要」と説明。経営トップがジェンダーギャップ解消を経営戦略の中に組み込み、社内に継続的にメッセージを発信していくことが組織の変化につながるとした。 さらに、男女の報酬格差の背景には役職登用の差が大きいと指摘。役職に就くことで支給される役付き手当が報酬差として表れているとし、「意識的に立場を与えることで人が育つ側面もある」と説明。女性を管理職などのポジションに登用していくことが、社会のジェンダーギャップ解消につながるとの認識を示した。 永山さんは、取締役会の女性比率には業種による違いもあると説明。内部登用で女性役員を輩出しやすい企業とそうでない企業の差に加え、社外役員候補となる女性人材の不足も課題だとした。数に限りがある中で、「どういう方が社外役員としてふさわしいのかを検討している企業も多く、その検討の進み具合によって差が出ているのではないか」と分析した。 森田さんは、女性人材の母数の少なさにも言及。「女性の比率が高いと、その後のアクションが取りやすいという面もある」と説明。そのうえで、「社長会の議論では『無理なのではないか』という声が上がることもあるが、リーダーシップを持って進めることで気づきが生まれ、取り組みが進んでいく企業が多い印象を受けている」と述べた。 NECのI&Dの取り組み 第三期に寄せて永山さんは、技術系企業において女性管理職比率の向上が課題となっている現状に触れ、「テクノロジー企業のトップである森田さんがチェアとして活動を牽引することは、特に技術系企業にとって大きな励みになるのではないか」と期待を寄せた。 NECでは、「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現」を掲げ、I&D(Inclusion & Diversity)を推進している。多様性を単なる人数の問題ではなく、一人ひとりがパフォーマンスを発揮できる環境づくりと捉え、インクルージョンを重視した取り組みを進めているという。 この取り組みを推進しているのが、クラウド・マネージドサービス事業部門長 兼 Chief Diversity Officerの繁沢優香さん。I&D推進を事業部門の責任者が兼任する体制を取り、外資系企業での経験も生かしながら施策を進めている。 クラウド・マネージドサービス事業部門長 兼 Chief Diversity Officer 繁沢優香さん ジェンダー領域では、2024年には女性管理職数を統括部長以上のKPIに設定。新規登用の管理職の女性比率を高めてきた。また、女性主任と上司向けの育成研修や、JobRainbowによる「D&I検定」取得機会なども提供。こうした取り組みの積み重ねにより、女性管理職比率は2019年の5.6%から2025年度には11.3%まで増加した。 また、男性育休の取得率も2019年は7.9%から2025年度には72.4%(新設の配偶者出産休暇取得を含めると90.5%)まで伸びている。 繁沢さんは、KPI設定当初にはやはり「これは女性優遇ではないのか」といった反発もあったと振り返る。こうした反発に対しては、男女間の賃金差や女性がライフイベントによって不利になりやすい社会構造、投資家も女性活躍を重視していることなどのデータを用いながら丁寧に説明し、理解を広げてきたという。 また、女性役員の増加に伴い社内にはロールモデルも生まれ始めた。女性役員のコミュニティを設け、経験を共有する場もつくっている。ただし、役員を目指すことを一律に求めるのではなく、「自分自身のキャリアをどう考えるか」を重視しているという。 こうした取り組みを通じて、女性社員の意識にも変化が見られるようになった。かつては「技術系の会社に自分が合うのだろうか」と不安を抱く声もあったが、社会や職場環境の変化とともに、企業文化や意識も少しずつ変わり始めているという。 ...クリックして全文を読む