ハフポスト日本版
小学館 小学館のマンガ配信アプリ「マンガワン」で、性加害事件を起こした漫画家を別名義で起用した問題は、加害者の社会復帰の是非やあり方、どう被害者を保護するべきかという問題を突きつけている。 犯罪心理学者で東京未来大学副学長兼こども心理学部長の出口保行教授へのインタビューから探る。 【画像】 児童売春・ポルノ禁止法違反で逮捕で連載中止になったマンガ『堕天作戦』 性犯罪を犯したマンガ作家の復帰のあり方が議論に まず経緯を振り返る。2020年2月、漫画『堕天作戦』の作者である山本章一氏が児童売春・ポルノ禁止法違反で逮捕・略式起訴され、罰金刑となった。 被害女性は、山本氏が講師を務めていた北海道の私立高校の元生徒。 朝日新聞 によると、民事訴訟では、山本氏が教員の立場を悪用して元生徒に性加害をしたとして、一審の札幌地裁が2026年2月、山本氏側に1100万円の賠償命令を出した。その後、双方が控訴している。 上記の漫画は、小学館のウェブコミック配信アプリに連載されていたが、2022年10月に連載中止。しかし、2022年12月に「一路一」という別名義で、山本氏を同アプリに連載する新作漫画の原作に起用した。 今回の件で、議論のひとつにあがっているのが「性犯罪を犯したマンガ作家・原作者の復帰を認めるべきか」という点だ。 出口教授は、犯罪心理学の観点から「犯罪者の更生支援は罪種を問わず必要」と指摘する。その上で、社会復帰が困難になる要因として、社会による加害者への「ラベリング」をあげる。 「『この人は犯罪者だ』という強固なラベルを貼ってしまうと、本人がどれほど努力しても社会がそれを受け入れないという現象が起こります。特に性犯罪者に対してはこの傾向が加速します」(出口保行教授 以下同じ) 加害者が社会から孤立することで、結果として、再犯のリスクが高まる恐れもある。一方で、性被害にあった人の多くが、その後も苦しみ続けている。加害者が公の場で活動し続けることは、被害者にとっては、事件を強制的に思い出させるトリガー(引き金)になり得る。 「被害者サイドとしては、加害者の活動を知ると事件を思い出し、フラッシュバックが起こるのも当然です。加害者の更生支援と被害者保護。ケースに応じて、バランスをみながら取り組まなければなりません」 被害者を保護しながら、加害者の社会復帰を考える上で、どんな対応が求められるのか。 反省は誰でもできるが「内省」が必要 性犯罪者の認知の歪みとは 出口教授は「加害者本人が事件の重大性をどのように感じているか、自らの過ちをどの程度の重さとして受け入れているかということを見極めることが必要」と指摘する。 「反省は誰でもできますが、表面的なことが多いのです。内省をどのようにさせることができるかがポイントになります。自らを省みること、他者を慮(おもんばか)ることができないと難しいのです」 また、性犯罪者の更生支援の現場経験に触れ、こう話す。 「私が刑務所で性犯罪者のカウンセリングを担当していた時、重い刑罰を受けているのに、まだ事件の話をしていると、それだけで明らかに興奮してくるのがわかる者が多くいました。真摯に内省し、犯罪と向き合えているかどうかが重要なのです」 出口教授によると、性犯罪の根底には、性加害者による「認知の歪み」が存在するという。 「性犯罪者の中には、自らの犯罪行為を『被害者も望んでいた』と自己中心的な解釈をする者がいます。そもそも被害者が苦しんでいるということに目が向かないのではなく、心の底からそう思えない人間がいるということです。 これをレイプ神話と呼びますが、被害者が望んでいると『本気で』考えて いる人がいるということ。 したがって、性犯罪者の改善更生に認知行動療法という心理療法が用いられ、そもそも被害者は、犯罪行為を望んでいないという正確な認知をさせることから始めなければなりません」 「認知の歪み」によって、犯罪行為を正当化する性加害者が存在している。こうした歪みを正すために用いられるのが心理学的アプローチだ。 出口教授は効果的な手法として、カウンセリングや「内観」をあげる。「内観」とは、治療方法の一つで、固定化した視点を転換させることにより治療効果を生むという。 被害者に対する歪んだ認知を正し、加害者本人の内省を促す。性犯罪における更生は、こうしたプロセスが欠かせないという。 小学館の対応は?質問には返答なし 山本氏の復帰にあたり、被害者保護と加害者の更生支援はなされたのか。 「ハフポスト日本版」は、こうした議論や対応があったのかを小学館に尋ねたが、期日までに返答はなかった。 被害女性は、代理人を通じて出したコメントの中で「前科がある人であっても、絵を描いたりストーリーを考えたりすることはしても良いと思いますし、そういう人に発表の場を与えることも、一概に悪い事だとは考えていません」という立場を示している。 同時に「加害教員の漫画を読んでくれている読者に対して誠実に、休載の本当の理由を伝えるべきだと思っていただけなのです。加害教員には、犯罪行為を認めて充分な対処をした上で、二度としないと約束してから次に進んでもらいたいと考えていました」とコメントしている。 山本氏は連載中止後、別名義での新連載で復帰し、被害者も知らされていなかった。読者への対応をした形跡も伺えない。 被害者も「私にわからないように別のペンネームを使って加害教員を原作者として活動させていたことを知って、確かにショックでした」と振り返っている通り、被害者保護や、自身の加害行為に向き合う「更生」のあり方とは、かけ離れたような対応だった。 また今回、小学館の編集者が被害者との和解交渉に関与していた。小学館の仕事と無関係であろう場で作家が起こした事件に関して、編集者が介入・加担した。 「人気作家を守るのが編集者」といった考えからなのか、このような形で漫画家を「守る」ことは、被害を矮小化・軽視し、本人が加害行為に向き合うことを妨げてしまう恐れもある。 小学館は3月19日「小学館 人権方針」の策定や第三者委員会の設置を発表した。 方針の中で「人権リスクへの対応と救済」として、「万が一人権侵害が発生した場合は、被害者の安全と尊厳を最優先に、事実調査・被害抑止・再発防止・必要な支援などの対応を迅速かつ誠実に行います」と明記している。 マンガアプリは子どもや若者が日常的に触れるメディアで、作家の影響力も大きい。小学館は、加害者の復帰よりもまず、被害者の尊厳や読者からの信頼を守るべきだったのではないだろうか。 Related... 【画像】事件の話で興奮する性犯罪者も…「小学館マンガワン問題」と更生の難しさを犯罪心理学者に聞く 小学館に抗議するため、マンガワンで配信停止する漫画家が相次ぐ。性加害の漫画家を「別のペンネーム」で原作者に起用 「セクシー田中さん」編集者のメッセージにSNSで大きな反響。「現場」からの勇気ある発信で問われる会社の責任 ...クリックして全文を読む
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