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『風、薫る』腰巾着キャラに大反響。坂口涼太郎は、なぜこれほどまでに「愛される嫌な奴」を演じられるのか | Collector
『風、薫る』腰巾着キャラに大反響。坂口涼太郎は、なぜこれほどまでに「愛される嫌な奴」を演じられるのか
ハフポスト日本版

『風、薫る』腰巾着キャラに大反響。坂口涼太郎は、なぜこれほどまでに「愛される嫌な奴」を演じられるのか

見上愛、上坂樹里がW主演を務める連続テレビ小説『風、薫る』。田中ひかる著『明治のナイチンゲール大関和物語』(中央公論新社、2023年)を原案としたオリジナル作品で、激動の明治、看護の世界に飛び込んだ二人の“トレインドナース”を描く本作。 第7週『届かぬ声』から舞台は帝都医科大学附属病院へ移り、りん(見上愛)と直美(上坂樹里)ら看護婦見習いが本格的な実習に臨む。新たに登場し、ひときわ強い“逆風”を吹かせるのが、外科の助教授・藤田邦夫を演じる坂口涼太郎だ。 「強気を助け弱きをくじく」絵に描いたようなタイプ 藤田の第一印象は、典型的な“腰巾着”である。看護婦見習いのことは見下す一方で、教授のご機嫌はとる、「強気を助け弱きをくじく」絵に描いたようなタイプ。担当患者・園部(野添義弘)が患部を手で触っているのが気になり、回診を終えた今井教授(古川雄大)を追いかけ、園部をよく診てほしいと頼んだりんに、藤田はすかさず「看病婦が教授に指図するつもりか!」と激怒。去り際にも「思い上がるな。医者は君以上に研さんを積んでいる」と言い放つ。看護婦見習いを一段下の「看病婦」と呼んで突き放す一語に、小さな男のいじましさが滲む。 ところがこの男、直美にはからきし弱い。担当患者・丸山(若林時英)の薬を1日3回に増やす提案を、ほほ笑む直美からキラキラの笑顔で持ちかけられると、思わず顔に見入って話を聞いてしまい、「うん……1日3回に……」とうなずきかける。我に返って「いやダメだ、ダメ」と踏みとどまるのも束の間、「今井教授がおっしゃっていて」と“教授”の名を出された途端、「今井教授が?」と気持ちはまたグラグラ。直美に転がされっぱなしの様子は、見ていて気の毒なほどだ。 藤田邦夫を、彼が演じると、こうなる。憎たらしいのに憎めない愛嬌が、必ずどこかにこぼれ落ちるのだ。廊下を医師たちが並んで歩く『白い巨塔』さながらの総回診では、教授の脇でしかと嫌なヤツ感を漂わせているのに、直美の笑顔ひとつにあっさり壁を崩されてしまう。実は単純で、チョロくて、小心者――おそらく本人もそれを薄々わかっているからこそ、見下せる立場にある相手にはわざと居丈高に振る舞い、虚勢で足元を固めている。そう読み解くと、ただの腰巾着だった人物の輪郭がにわかに人間味を帯びてくる。 “ジャケットプレイ”で自ら風を吹かせる そんな彼のチョロく無防備な心の扉を、本作では“ジャケットプレイ”が開け閉めしてみせる。見習いたちに威張るとき、廊下を風を切って歩くとき、藤田はジャケットの合わせをシュッと手で払い、自ら風を吹かせる。あまりに大袈裟な所作に、こちらはまず驚き、笑ってしまう。にもかかわらず、その開ききった懐に直美がやすやすと入り込んでいる様を見ていると、藤田が気の毒で、愛おしくも見えてくる。一動作で人物の見え方をくるりと裏返してみせる芸当は、3歳でピアノを始め、中学からダンスに通い、17歳で森山未來主演・演出のダンス公演『戦争わんだー』のすずめ役で初舞台を踏んだ、身体表現者・坂口涼太郎ならではのものだ。 【動画】 これが坂口涼太郎さんのジャケットプレイだ! その後、坂口は原作から抜け出てきたかのような再現度で原作ファンを驚かせた映画『ちはやふる』シリーズ(16〜18年)のヒョロこと木梨浩役で広く知られ、いまも登場のたびにSNSに「ヒョロくん」という声が上がる。 朝ドラには本作で5作目の出演。なかでも忘れがたいのは『おちょやん』(20年度後期)の須賀廼家百久利だ。アドリブ王と呼ばれる兄貴分の千之助(星田英利)に心酔し、付き従って歩く絵に描いたような腰巾着――そんな百久利が、千之助の独りよがりな台本を前に震えながら「俺もあのホンは面白ない思います」と異を唱え、胸ぐらを掴まれても涙ながらに本音をぶつけたとき、視聴者は彼を別人のように愛するようになっていた。腰巾着の顔のうらにある芯と痛みを取り出してみせる――それが坂口の真骨頂だ。 藤田邦夫もまた、その系譜にある役だろう。本作には、直美が交際を承諾した海軍中尉の正体が、親のいない境遇が直美と重なる詐欺師・寛太(藤原季節)だったという展開もあった。直美の恋の行方には複雑な気配が漂うが、それと並走するように、藤田の直美への――おそらく本人さえ自覚していない――一方通行の愛おしさが今後どう描かれるのかも、見どころのひとつになるかもしれない。 「らめ活」、ジェンダー、政治……日本の若手俳優には珍しいタイプ 出演発表時に坂口本人が寄せたコメントが、印象的だった。「いま私たちがいい薫りの風の中で生きられるのはこの物語の中に登場する女性たちのおかげです。私は、当時は当然だった逆風を担当させていただきます」「いい薫りではないかもしれません」(婦人公論.jp 26年2月25日)。役を物語の風向きの中に置き、自分の引き受け方をきちんと言葉にしてみせる――坂口涼太郎は、自身の哲学を持ったロジカルでクレバーな俳優である。 『あさイチ』(NHK)には準レギュラーと言ってもいいほどの登場頻度で、25年8月刊行の初エッセイ『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』(講談社)は版を重ね、人と比べることをあきらめて自分の色を明らかにする「らめ活」哲学が共感を呼んでいる。ジェンダー、平和、政治と、社会への発信も積極的だ。日本の若手俳優には珍しいタイプ。だからこそ藤田邦夫の一挙手一投足は、“ただの腰巾着”では終わらない。 「道をはずれた人から、いつも道は生まれた。」――本作のキャッチコピーは、看護という新しい道を踏み出すりんと直美のためだけのものではない。明治の医学界という“道”の上で、教授には弱く見習いには強くと身を捩じらせている藤田邦夫もまた、その狭い道の上でしか自分を保てない、別の意味で“道のはずれ方を知らない”人だ。その小さな男に憎みきれない愛嬌をまとわせ、新しい風が立ち上がるための逆風を引き受けてみせる。坂口涼太郎は、この作品に出るべくして出た俳優だ。第7週から始まった病院編で、彼の吹かせる逆風から、しばらく目が離せそうにない。 【あわせて読みたい】 【『風、薫る』人物解説】まさに「春の藤原季節まつり」状態。わずかな出演時間で視聴者の心を奪う寛太役・藤原季節の味わい Related... 【動画】これが坂口涼太郎さんのジャケットプレイだ! ドラマ『風、薫る』「水野美紀」演じる母の“痛快な生き方”とは? 貧乏になり、夫の死に目に会えずも…明るさで自らが輝く場所へ 【『風、薫る』人物解説】養成所編突入で、マウンティング系お嬢様・玉田多江(生田絵梨花)が登場。努力家“いくちゃん”との共通点とは? ...クリックして全文を読む

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