Collector
ど素人でもわかる「再審法」の今〜筋肉少女帯の『これでいいのだ』とともに | Collector
ど素人でもわかる「再審法」の今〜筋肉少女帯の『これでいいのだ』とともに
ハフポスト日本版

ど素人でもわかる「再審法」の今〜筋肉少女帯の『これでいいのだ』とともに

阪原弘さんの墓前に報告する長男の弘次さん(中央)ら 「父はなんのために死んだんですか。あの時、すべての証拠が揃っていたら、父は死ぬことはなかったんです。今でも元気に生きて、子どもや孫、ひ孫や玄孫に囲まれて幸せに暮らしてると思うんです」 5月20日、東京・文京区民センターの一室に、悲痛な声が響き渡った。声の主は、阪原弘次さん。今年2月、最高裁で「再審開始」が確定した日野町事件の再審請求人である。 日野町事件とは1984年末、滋賀県にある日野町の酒店店主が行方不明となり、翌年に遺体で発見された事件。酒店の常連客だった阪原さんの父親・弘さん(当時52歳)は88年、犯行を自白したとして逮捕・起訴されている。 しかし、のちに自白を強要されたことやアリバイの存在などを訴えて無実を主張。自白以外に阪原さんと事件を結ぶ証拠はなかったものの、2000年、強盗殺人で無期懲役が確定。そうして逮捕から23年後の11年、獄中で死去。 長男である弘次さんは父親の死後も再審を求め続け、やっと今年、最高裁で再審開始が確定したのだ。父親の逮捕から、実に38年後のことである。 そんなふうに阪原さんが求め続けてきた「再審」。そもそも再審ってなに? というところから話を始めると、それは「裁判のやり直し」だ。 無実の罪で刑務所にブチ込まれ、何十年も人生を奪われる――。 どう考えても、自分の人生で起きてほしくないことナンバーワンくらいの不条理ではないだろうか。ちなみに私の「冤罪」との出会いは中学時代、筋肉少女帯の『これでいいのだ』を聴いたことによる。 「いわれなき罪によって無実の僕は13年間 オリの中に閉じ込められていたのであった」 そんな歌い出しから始まるこの曲を初めて聞いた時、「世の中にこんな恐ろしいことが存在するのか」と驚愕した。歌詞は少し飛んで以下のように続く。 「どんな夢も(不思議じゃない) 僕は(いつも思うんだ) いくら(つらい事があったって) これでいいのだ これでいのだ これでいいのだ これでいいのだ」 いじめに遭い、毎日死ぬことばかり考えていた10代の私はこの曲を聴いて「自分はこの人に比べればまだマシじゃないか」と自らを励ましていた。13年を奪われたという人の「これでいいのだ」という達観というかやけくその肯定が、自分を苦しめるいじめという不条理を吹き飛ばしてくれる気がしたのだ。 袴田巌さんをはじめとして、この国に冤罪被害者がいることを知ったのは、それから数年後のことだったと思う。そんな人たちを救うのが、「再審」。しかし、今の日本の再審法には、救済の壁となる欠陥がいくつもあるという。そのひとつが検察の抗告(不服申し立て)。 これによって、裁判所が再審を決めても決定までに時間がかかるなど手続きが長期化してきたという。 ちなみに47年もの獄中生活を強いられ、再審無罪が確定した袴田さんは、この検察抗告により、再審開始決定の確定までに実に9年を要している。逮捕から無罪が言い渡されるまでは、なんと58年。 それだけではない。福井中学生殺人事件で再審無罪が確定した前川彰司さんは、第一次再審請求の再審開始決定が検察の抗告で取り消され、無罪確定まで約13年かかっている。 冒頭に紹介した日野町事件では、検察が二度にわたって抗告をしたため、再審開始決定まで、約7年半を要しているという(参考:『週刊金曜日』2026/5/22 「冤罪を早期に救済する再審法改正を!」宇都宮健児)。 だからこそ、再審法の改正に向けて多くの人が動いている。 日本弁護士連合会はもちろん、再審法改正を求める超党派の議員連盟(「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」)には、国会議員の半数を超える388人が参加。また全国881の地方議会からも賛同の声が上がり、日本ペンクラブや自由法曹団など、実に1000以上の団体も再審法改正に賛同。 そうして冤罪被害者の救済のため、議員立法で法律案も作られていた。内容は、証拠開示を権利とすることや前の裁判に関わった裁判官は再審に関われないようにすること、そして検察官の不服申し立て(検察官抗告)の禁止など。 が、そんな法案が、高市首相による今年1月の衆議院解散で「廃案」となってしまうのだ。 それだけではない。法務省は議員立法の動きがあるのに別途、再審制度の見直しを「法制審議会」というところに検討させる。が、そこで出てきた内容は、「今より冤罪救済が困難になる」と大きな批判が集まるものだった。いわゆる「稲田の乱」があったのはこのためである。 批判しているのは稲田朋美議員だけではない。専門家たちも声を上げている。 昨年11月には135人の刑事法学者が「再審法改正議論のあり方に関する刑事法学者の声明」を出し、12月には63人の元裁判官によって「再審法改正に関する元裁判官の共同声明」が出されている。 これほどにゴリゴリのプロが警鐘を鳴らす再審法の改悪。5月20日、そんな状況をなんとかしようと「再審法改正をめざす市民の会」によって「ノーモアえん罪 今こそ変えよう再審法」という集会が開かれ、参加した。そこでスピーチしていたのが冒頭の阪原さんだったのだ。 ちなみに私はこの日まで、恥ずかしながら「日野町事件」を知らなかった。一応、冤罪とかに少しは関心があると思っていたのに、である。 そう思ってこの日配布された資料に目を通し、さらに驚いた。冤罪事件と言えば「袴田事件」が有名だが、それ以外にも実に多くの事件があるのだ。 以下、すでに再審無罪が確定した事件だが、「足利事件」「布川事件」は知っていた。冤罪で捕まっていたご本人にお会いしたこともある。「免田事件」「東電社員殺害事件」、また看護師の女性が逮捕された「湖東事件」も有名だ。最近では「福井中学生殺害事件」もよくメディアで目にする。 が、ここから挙げる事件をどれだけの人が知っているだろう? 「梅田事件」「北海道警おとり操作事件」「松山事件」「滝事件」「米谷事件」「弘前事件」「島田事件」「吉田事件」「東住吉事件」「大阪強盗虚偽証言事件」「榎井村事件」「財田川事件」「加藤事件」「徳島事件」「松橋事件」――。 この国で、再審無罪がすでに確定している冤罪事件だけでこれだけの数があるのだ。どれほどの人が無念の涙を飲んできたのだろう。 そして再審無罪を目指しているものの、いまだ得られていない事件に、日野町事件や大崎事件、飯塚事件などがある。 ちなみに飯塚事件では、すでに死刑が執行されてしまっている。恐ろしいのは、死刑執行後に証拠の改竄などが判明したこと。冤罪の「取り返しのつかなさ」をこれほどまでに突きつけるケースはないだろう。 もし、自分だったら。いわれなき罪で囚われるだけでなく、命まで奪われてしまうのだ。しかも凶悪な殺人犯として。想像しただけで、絶叫どころじゃない衝動が突き上げる。袴田さんはこんな思いを数十年もしてきたのだ。 そんな集会には多くの専門家が登壇したのだが、驚いたのが、会場には自民党議員の姿もあったこと。集会では「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」事務局長である井出庸生議員がスピーチし、また、稲田朋美議員からのビデオメッセージも紹介された。 私は常々このような市民集会に参加しているが、そんな場で自民党議員を見かけたことは皆無(リベラル系野党議員は多くいる)。が、自民党議員までもがこうして出てくる事実に、今の改悪案がいかに危ういものであるかを痛感したのだった(マニアックなことを言うと、このかん、修正はされている。が、課題はむちゃくちゃ残っている)。 集会で印象に残っているのは、袴田巌さんの再審開始と釈放を決定した、元裁判官の村山浩明氏のスピーチ。 村山氏は現在、再審法改正についての活動に力を入れているそうで、その原点はやはり、袴田事件を担当したことだという。そこで強く感じたのが、「今の法律では、偶然によってしか再審は開始されない」という現実。 だからこそ、確実に冤罪を救済できるルートが必要と強調し、最後にこう締めくくった。 「刑事司法を長年やってきた者として、再審は、正義中の正義だと思います。間違った裁判によって、いわれのない処罰を受けている人を救済する。これ以上の正義はない。それを実現するために、きちんとしたルールを作る。それこそが再審開始の道だと思っています」 5月15日、大きな課題が残ったままの改正案は閣議決定されている。法務大臣は今国会で成立できるよう丁寧な説明を尽くしたいと述べているが、どんな展開になるのか。しっかり見守りつつ、必要な時は声を上げまくりたいのでその時はよろしくお願いしたい。 (2026年5月27日の雨宮処凛がゆく!掲載記事『 第762回:ど素人でもわかる「再審法」の今〜筋肉少女帯の『これでいいのだ』とともに。巻(雨宮処凛) 』より転載) 【あわせて読みたい】 50代で「ロスジェネ支援プログラム」と言われても〜20年遅い国の対応 Related... 日本人ファーストから1年。日本と、世界で起きたこと(保存して半年後、1年後、5年後、10年後に読み返すために) お金・保険証がなくて病院に行けず末期がんで命を落とした女性は、死の3カ月前まで風俗で働いていた。「手遅れ事例」24年で48人 ニューヨーク市長・マムダニ就任100日〜その“人たらし”能力に驚愕する ...クリックして全文を読む

Go to News Site