ハフポスト日本版
半導体・ITの最前線を走る技術商社、東京エレクトロン デバイス(以下、TED)の新たな代表取締役社長に2026年4月、宮本隆義氏が就任した。 会社紹介資料より 同社は、半導体や電子部品を取り扱う「半導体及び電子デバイス(EC)事業」、最先端のネットワークやサイバーセキュリティ、AI製品を提供する「コンピュータシステム関連(CN)事業」、そして自社製品の製造や設計・量産受託を担うメーカーとしての「プライベートブランド(PB)事業」の3つを軸に展開している。 世界的な対立による半導体の「供給不足リスク」、生成AIの急拡大に伴う「高性能チップの争奪戦」、そして日々ニュースを賑わす「サイバー攻撃の脅威」――。私たちの暮らしやビジネスの根幹を担う変化の激しい市場の中で、同社はどこを目指すのか。半導体市場の現状と経営戦略を宮本社長に聞いた。 宮本隆義(東京エレクトロン デバイス 代表取締役社長) 宮本隆義(東京エレクトロン デバイス 代表取締役社長) 1970年生まれ、兵庫県出身。1993年大阪工業大学経営工学科卒、東京エレクトロン入社。その後、東京エレクトロン デバイスにてコーポレートアカウント営業部長やCN営業本部長などを歴任し、CN(コンピュータシステム関連)事業を牽引。2020年執行役員、2025年執行役員副社長および取締役に就任。2026年4月、同社の代表取締役社長に就任した。 ―宮本社長は、1993年に東京エレクトロン(以下、TEL)に入社されています。入社のきっかけはなんだったのでしょうか? 実は、綿密な業界分析をしていたわけではないんです。面接時に肌で感じた「人」の魅力や他社にはない「柔らかい雰囲気」に惹かれ入社を決めました。入社当時は半導体製造装置事業と、電子部品関連の「EC事業」・IT関連の「CN事業」がすべて東京エレクトロン(TEL)にあり、半導体製造装置メーカーとして成長を続けていました。その後1998年にTEDが「EC事業」を譲り受け、2006年に「CN事業」も事業継承されることになります。 ―宮本社長は、「CN事業」に長く携わってこられていますが、技術の移り変わりが激しいこの業界で、キャリアを重ねてこられた原動力は何だったのでしょうか。 業界特有の圧倒的な「スピード感」です。私が所属していた「CN事業」では、多いときは1年で6〜7個ものプロジェクトを立ち上げます。3カ月に1回以上新規事業に挑んでいる感覚です。常に新鮮な刺激があるため、30年以上同じ会社にいるにもかかわらず、ずっと同じ場所にいる感覚が全くない。それが、飽きずに続けてこられた一番の理由です。 半導体は「産業の米」から「戦略物資」へ ―コロナ禍以降、世界的な供給不足や地政学リスクにより、半導体のサプライチェーンは激変しました。この市場の構造変化を最前線でどのようにみていますか? 半導体はもともと「産業の米」と呼ばれ、あらゆる電化製品や自動車に不可欠な汎用部品という位置づけでした。しかしコロナ禍では、世界中でスマホやパソコンの需要が爆発した一方で、物流が止まり世界的な「半導体の奪い合い」が起きました。手に入らなくなれば経済も国防も麻痺してしまう、国家の命運を握る「戦略物資」へと変わったのです。 背景には、極端な分業化があります。現在はNVIDIAのような、自前の工場を持たずに設計・開発のみに特化する「ファブレス企業」が市場をリードしています。一方で実際の製造では、その大半を少数の企業が担っています。 米中対立などの地政学リスクによって台湾からの供給がストップすれば、世界経済は機能不全になってしまう。「1社・1地域への過度な依存」に対し、各国のリーダーたちが危機感を抱くのは当然のことです。 ―その危機感から、現在の世界的な半導体製造の「自国回帰(製造拠点を自分の国に戻す動き)」につながっているわけですね。 かつてのように「安く作れる国(海外)から買えばいい」という時代は終わり、巨額の国費を投じてでも「有事に備えて自国で生産できる保証」を維持する流れが定着してきました。 日本国内に目を向けても、TSMCの熊本工場(JASM)の稼働や、最先端チップの国内量産を目指す新会社「ラピダス」のプロジェクトなど、官民を挙げた大規模な投資が動いています。こうした国家主導のサプライチェーン再構築のうねりは、国際政治と連動した当然の動きだと肌で感じています。 ―過剰在庫を減らす在庫調整期間を経て、足元では「AI特需」が動き出しています。 AIサーバーなど、特にAIに学習させるための「モデル構築」への巨額投資が活発です。大手テック企業による巨額投資が、世界中のデータセンター建設に向かっていると言われています。 この動きによって、大量のデータ処理に必要な最先端メモリや、データを記憶する「NANDフラッシュ」などが再び不足し始め、お客様が「モノの確保」に走り出しています。このAI特需は、いつまで続くか誰にも分かりません。「電力を十分に確保できるのか」「運用する人材はいるのか」といった現実的な課題もあります。 2026年3月期 本決算説明会資料より ただ、部品事業を中心に需要が正常な右肩上がりに戻っているのは事実です。商社としては、サプライヤーとお客様の生産計画をこれまでよりも高い精度で共有し、先手を打って供給を確保する「黒子(仲介役)」の役割を徹底するしかありません。 取引先の在庫調整(余分な在庫を減らす動き)については、自動車の生産などは右肩上がりで回復していますが、分野や企業によって「回復の差」が激しいのが現状です。 ―受注の回復は、すでに業績の数字として明確に表れ始めているようですね。 2026年3月期 本決算説明会資料より 前期(2026年3月期)の第3・第4四半期後半にかけて、電子部品(EC)事業の受注は底を打ち、現在は回復軌道に乗っています。2026年3月期は減収減益となってしまいましたが、在庫調整も終わり回復軌道に乗っています。4月28日の 決算発表 で公表した通り、これを受けて今期(2027年3月期)の通期業績予想は、売上高・経常利益ともに前期比10%以上のプラス成長を見込んでいます。 まだ新しい期が始まったばかりですが、十分に達成可能な数字だと手応えを感じています。ただし、せっかく注文をいただいても、実際の部材が入ってこなければ売上にはつながりません。足元の部材不足のリスクを考慮し、今後の入荷状況を慎重に見極めていく必要があります。 ―業績の回復に伴い株価も上昇局面を迎えています。投資家をはじめとするステークホルダーの期待にはどう応えていきますか。 Trading View提供「 東京エレクトロン デバイス」(2760)株価チャート(6カ月) 株価はあくまで市場が決めるものです。私たちが果たすべきは、着実に業績を上げ、企業価値を高め、利益率を改善していくことです。それこそが最終的に株主の皆様への還元に繋がり、市場から求められている期待に応える唯一の方法だと考えています。 「技術商社」と「メーカー」の融合。社会課題とどう向き合うか 宮本隆義(東京エレクトロン デバイス 代表取締役社長) ―TEDは「技術商社」と自社ブランド(PB)を持つ「メーカー」という2つの顔を持っています。この二面性を活かした「融合」戦略をどう描いていますか。 2026年3月期本決算説明会資料より いきなり「融合ありき」で形から入っても上手く進みません。だからこそ、社内に対して「まずは一つ一つの事業が右肩上がりで成長し、太く大きくすることに集中しよう」と伝えています。それぞれの柱が圧倒的に強くなって初めて、意味のある融合やシナジーが生まれると考えています。 ―現場レベルにおいて、「EC事業」と「CN事業」の協業はどのように始まっているのでしょうか。 「自然な形」で増えてきています。「EC事業」で販売した半導体部品を使って製造された製品を活かすために、クラウドサービス(Microsoftなど)を導入したり、ネットワークセキュリティが必要になったりするケースが多いのです。つまり、「EC事業」の顧客の先で、「CN事業」が扱うソフトウェア商材のニーズが自然と発生しているわけです。 さらに今後は、通信を介さず端末側で瞬時にAI処理を行う「エッジAI」の時代です。「エッジAI」については、「EC事業」部隊が最前線で手掛けていますが、それを動かすシステム領域としては「CN事業」のITソリューションと非常に似通っています。お客様のフェーズに合わせて両者が連携する機会は確実に増えてきています。 ―長期目標「VISION2030」では、ミッションに「社会課題の解決」が加わりました。具体的にどのような課題と向き合われているのでしょうか。 2026年3月期 本決算説明会資料より 社会課題については、「顧客のニーズに全力で応えた結果、振り返ってみたら社会課題へのアプローチに繋がっていた」ということが多いと感じています。 2026年3月期 本決算説明会資料より 例えば、当社の「PB事業」の「設計・量産受託サービス」において、理化学研究所様の大型放射光施設「SPring-8(スプリングエイト)」と取り組んでいる事例があります。実験過程で発生する膨大なデータをリアルタイムに可視化するため、データを小さく圧縮して超高速で処理する特殊なボードを 共同開発 しています。 私たちは理化学研究所様の「データを速く処理したい」という目の前のニーズに応えるために必死に開発を重ねているわけですが、それによって研究が進み、将来的に何か大きな社会課題が解消される。あくまでお客様への貢献の積み重ねが、最終的に社会課題の解決につながると信じています。 ―「CN事業」や「PB事業」の比率を高めて、従来の商社型から「付加価値ソリューション型」へと、ビジネスモデルを完全にシフトさせていく戦略なのでしょうか。 企業価値を高めるためには、単に製品を横から横へ流す(仲介する)だけでなく、自ら価値を「アドオン(付加)」していく行為が不可欠なのは間違いありません。だからと言って「意図的に特定の事業比率だけを引き上げる」といった極端な戦略は取っていません。あくまで各事業がそれぞれの強みを太くしていくのが基本です。 その上で、私たちが自ら価値を生み出す「PB事業」の拡大戦略としては、お客様の要望に合わせてモノを作る「設計・量産受託サービス」と、ウエハ検査装置などのTEDが自ら市場のニーズに応えて開発・製造する「自社製品開発」の両輪を伸ばしていく計画です。今後はさらに商品のラインナップを拡充し、成長を加速させるための「M&A」も重要な選択肢として視野に入れています。 ―足元の納期長期化リスクや、AI向け半導体の優先によって自動車・家電向けの汎用半導体の生産枠が削られ生産終了になってしまうケースにはどう対応していますか。 世界的な半導体メーカーが利益率の高いAI向けへ舵を切る中で、利益の薄い古いデバイスが販売・製造終了になっていく動きは実際に顕在化しています。もちろん、既存のお客様のために可能な限りモノを確保する努力は尽くしますが、市場に流れるスポット品をその場しのぎで集めて売るような、場当たり的なビジネスはしていません。 私たちは、単に目先の在庫を追うだけでなく、次の世代の安定供給が見込める製品への「代替設計」をご提案しています。お客様の生産ラインを止めず、この先もビジネスを持続させていくためにはどうすればいいか。そこを一番に考えて、営業が現場で動いています。 最新AI時代のセキュリティ対策。重要なのはガバナンス ―昨今、高度な最新AIが登場したことで、サイバー攻撃の高速化・巧妙化が世界的な脅威となっています。このような時代に、既存の製品をどうアップデートさせていきますか。 今話題の、サイバーセキュリティ用途で注目されるAIモデル「クロード・ミュトス(Claude Mythos)」など、世間で新しいAIツールが話題になるたびに危機感が煽られますが、強力なソフトウェアが一つ登場したからといって、セキュリティのパワーバランスがひっくり返るわけではないと個人的には考えています。 そもそも、ハッカー視点でシステムの脆弱性を探知する「ペネトレーションテスト(擬似ハッキングテスト)」自体は、昔から存在しています。ただ、従来のように「人」の手作業に頼ると、検査範囲が限定され、レポートが出るまでに1カ月近くかかるというタイムラグが大きな課題でした。 だからこそ、私たちは、ハッカーと同じ動きで脆弱性を自動で見つけ続ける「Pentera(ペンテラ)」という製品を6〜7年前から扱っています。これには当初から高度なAI技術が実装されており、1日に何回でもテストを回せて、レポートも即座に作成できます。つまり、攻撃側の進化に対抗できるソリューションは、すでに存在しているのです。 本質的な課題は、ツールを導入した「その先」にあります。優れたツールによって、管理者の権限が乗っ取られるリスクなど、致命的な穴が100個、200個と浮き彫りになったとき、「自社で修復できるのか」「そのチーム体制はあるのか?」という、お客様側の運用体制の問題に行き着きます。 多くの企業が、自社システムの実態や致命的な穴の場所を正確に把握できていません。だからこそ、新しいAIが登場したと聞くと、実態のない恐怖に怯えて場当たり的に動いてしまう。見つかった脆弱性をどう仕分けし、どう修復していくかという人間側の体制(ガバナンス)こそが最も重要なのです。 私たちが提供している24時間365日体制のTED-SOC(セキュリティ運用支援サービス)についても、AIを使った自動化・省力化とエンジニアの確保という両面をダイナミックに強化しています。監視ビジネスは「守れて当たり前」の世界ですから、お客様の安心を脅かさないよう、日々その精度を上げ続けています。 抱負は「役割の全う」。組織の「人づくり」が重要 宮本隆義(東京エレクトロン デバイス 代表取締役社長) ―TEDのトップとして大切にされたいことや、ステークホルダーに伝えたいビジョンを教えてください。 私自身は「偉くなった」わけではなく、単に「役割が変わった」と捉えています。ですから、その「役割を全うすること」に尽きます。 もちろん、直近の業績を達成して株主の皆様に貢献することは大前提です。ただそれ以上に、今年の新入社員たちが定年を迎える数十年先も、この会社が価値高く存続し続けている土台を作りたいという思いが強いです。そのためには「人づくり」が不可欠ですが、私一人が声を張り上げても組織は変わりません。経営チームやマネージャーたちと協力しながら、組織全体で取り組んでいきます。 また、もう一つ重要なのが、創業から60数年受け継がれてきた「理念や文化」の継承です。人が入れ替わる中でこの共通の価値観が薄れると、パソコンでいう「OS(基本ソフト)」がない状態になってしまいます。ベースとなるOSがなければ、どんな最新の事業(アプリ)も動きません。この最も重要なベースを社内で共有し続けること。それこそが、経営者が言い続けなければならない一番の役割だと思っています。 ※本記事は、事例として取り上げた金融商品の売買を勧めるものではありません。本記事に記載した情報によって読者に発生した損害や損失に関しては、発行媒体は一切責任を負いません。投資における最終決定はご自身の判断で行ってください。 ※株価データは2026年6月4日時点。 Related... 【画像】AI特需と地政学リスクにどう向き合うか。東京エレクトロン デバイス新社長に聞く半導体・IT市場の最前線 このままでは日本の「おいしい」が危ないから。キリンが「一番搾り」を飲めば寄付になる、新ブランドアクションを発表 「沖縄県民に愛される」から「変革者」へ。株式上場したオリオンビールは、地方の可能性を広げる“ローカルゼブラ”を目指す 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